コラム No.024 アマゾン「お坊さん便」ついに中止になった理由

 

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アマゾン「お坊さん便」ついに中止になった理由

“水と油”仏教界と葬儀業界の急接近

出所:鵜飼秀徳 アマゾン「お坊さん便」ついに中止になった理由
(2019年10月24日 プレジデントオンライン)

ネット型僧侶派遣サービス「お坊さん便」を提供している業界大手「よりそう」が、アマゾンから撤退することがわかった。
10月24日に発表する予定だ。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏は「今回の撤退は、宗教者や宗教行為をECサイト上で“商品”として扱うことに抗議していた全日本仏教会との話し合いの結果だ。

今後、ネットで宗教行為をどう仲介するかがあらためて問われることになるだろう」という——。

アマゾン「お坊さん便」が突如中止になった背景

インターネットサイトを通じた僧侶派遣業が変革期を迎えている。

アマゾンに「お坊さん便」の名称で出品していた僧侶派遣大手「よりそう(旧みんれび、東京都品川区)」が、24日でアマゾンから撤退することがわかった。同社は同日中にも正式に発表する。

現在、僧侶派遣業は10社以上あるとみられている。近年はDMM.comグループなどに加え、一部仏教団体が僧侶派遣業に参入。群雄割拠の様相を呈していた。利用者数でトップを走る、よりそうの事業転換は今後、仏教界や葬儀業界に波紋を与えそうだ。

「僧侶は業者に使われる立場になったのか?」

「グーグルの検索でナンバーワンにしますから、仕事はいっぱい回ってきますよ」

今春、北関東の会場で僧侶派遣に新規参入した業者の説明会が行われた。担当者はこのように説明して、参加者の僧侶に登録を促したという。参加者は約20人。業者はさらに「うちは他社に比べてお坊さんの取り分が10%ほど多い」と強調。業者は僧侶の獲得に必死だ。

すでに2社に派遣登録しているという参加者の住職A氏は、

「ビジネスモデルとして、僧侶は業者に使われる立場になったということでしょうか」

と嘆きつつも、この会社でも登録することを決めた。

ロクにお経も読めない僧侶が派遣されることもある

ネット型僧侶派遣業とは、ECサイトや自社サイトなどを通じて決済し、登録されている僧侶を派遣し、読経してもらうサービスのことだ。業者は依頼主の宗派や所在地を鑑みて、条件に適合する僧侶とマッチングさせる。すると指定した日時、場所に僧侶がやってきて読経してもらえる仕組みだ。

しかし、ECサイトからの依頼では僧侶の属性などの丁寧な説明がなく、現場でトラブルが生じるケースもある。また登録される僧侶の「顔」が見えないという不透明さも不安材料だった。

先出の僧侶は言う。

「僧侶登録は実に簡単。この会社(先述の説明会をした業者)は、宗門の定める僧侶資格免状のコピーと免許証があれば、あとは電話面接するだけだという。免状なんか悪意があれば、簡単に偽造できてしまいますからね。派遣される僧侶がモグリであっても、依頼者には分からない。ロクにお経も読めない僧侶が登録されていたり、態度が悪い僧侶などもいたりして、クレームは少なくないようです」

「明朗会計」が僧侶派遣サービスの良さ

それでも僧侶派遣サービスには、一定のニーズがある。布施料金がハッキリと明示されているからだ。

よりそうの場合、墓回向や法要での読経で3万5000円(初回)だ。葬儀の場合は1日葬での読経で8万5000円~(戒名授与込み)、一般葬・家族葬での読経で16万円~(同)となっている。DMM.comグループ「終活ねっと」でも同水準の料金だ。

では、通常の菩提寺(先祖代々のお墓があるお寺)での布施相場と比べてどうか。寺の檀家に属していれば、葬式や回忌法要、墓・仏壇回向などはすべて菩提寺の住職に依頼することになる。その際の布施の金額は決まっておらず、施主の「お気持ち」ということになる。

仮に喪主の生活状況が厳しければ、「葬儀一式で1万円」ということもありえるだろうし、逆に富裕層や信心深い人なら「100万円以上」ということもあるかもしれない。布施の金額は従来、地域相場や遺族の懐具合を鑑み、寺院側との「阿吽あうんの呼吸」で決まっていた。

したがって、僧侶派遣と寺院の布施額は、どちらが高いとも安いとも言い難いが、概して都市部では派遣業者のほうが割安で、地方都市では寺院の布施のほうが安い傾向にはある。

菩提寺を持たない人や、故郷から離れて都会に住んでいる人は寺との接点が乏しい。「布施金額をハッキリと教えてもらいたい」という施主は少なくなかった。僧侶派遣は、そうした合理主義を求める都会型の施主のニーズに応えてきた。

派遣僧侶の場合、マージンとして40〜50%が業者の取り分

もっとも、寺院でも布施の相場を檀家から聞かれれば、目安金額を提示するケースが多いのも事実。本来の布施の精神は「喜捨(功徳を積むために喜んで金品を差し出すこと)」であり、そこに明確な金額などはないのが先述の通りだが、実態としては、施主に「どうしても金額を教えてほしい」と言われれば、多くの住職はある程度の目安を提示してきた。

派遣僧侶の場合、マージンとして40〜50%が業者の取り分として差し引かれることが多い。自坊で法事や葬儀をやったほうがはるかに僧侶の取り分は多くなる。派遣登録されている僧侶のメリットは薄いようにも思える。

しかし、寺を持たない僧侶や、檀家の数が少ない僧侶にとっては、貴重な収入源にもなっている側面もある。僧侶派遣は「地域社会の衰退」「寺院環境の変化」などを背景にして、出現すべくして出現したサービスなのだ。

2015年にアマゾンに出品、業績は昨年比150%超と好調

そんな中で、よりそうは僧侶派遣業の先駆的存在として頭角を現してきた。よりそうが「お坊さん便」を始めたのは2013年。その2年後の2015年にアマゾンに出品。すると、注文が急増し、話題をさらった。

「年間累計問い合わせ数は2014年度末実績に比べて、2018年度末は約13倍。直近の業績は昨年比で150%超(2019年第2四半期/新規外部受注分)と成長しています」(同社広報)。現在、同社に登録している僧侶は1300人超にも及ぶという。

しかし、アマゾンでの出品をスタートさせた当初、仏教界との軋轢あつれきも生じた。106の宗派や仏教団体が加盟する公益財団法人全日本仏教会は「お坊さん便」がマーケットプレイスを設けていたアマゾンに対して、「宗教行為をサービスとして商品にしているものであり、およそ諸外国の宗教事情をみても、このようなことを許している国はない」とホームページ上で抗議文を掲載していた。「ECサイト上で儀式を販売する」ということで、宗教者や宗教行為が「商品」として扱われてしまうことへの危惧であった。

今春に全日本仏教会との対話で「アマゾン撤退決定」

双方、対話の機会もなくサービス開始から4年が経過した2019年春。よりそう側と全日本仏教会との対話の機会が生まれた。その中で、よりそうはアマゾンからの撤退を提案。全日本仏教会も歓迎の意向を示したという。

「アマゾンの掲載によって仏事の価値が誤って理解されてしまった。仏事が不要なら我々も不要になります。正確な価値を伝えるため、アマゾンを取り下げることに決めました」(同社)

一方、よりそうの撤退に関してアマゾンジャパンは次のように回答した。

「販売事業者さまの販売計画などについては、アマゾンとして回答いたしかねます。販売事業者さまがアマゾンへの出品の停止を希望される場合は、販売事業者さまご自身のご判断にて、出品を停止することができます」(広報)

よりそうは、今後は主に自社サイトでの案内に一本化し、コールセンターを使ってより丁寧な僧侶仲介につとめるという。

また、布施の精神や、僧侶の品質向上を両立させる新しい施策として、「おきもち後払い」という新サービスも新設する。これは、「お坊さん便」を利用した後、満足度が高い法要だった場合には、施主が「お気持ち」として料金に布施を上乗せできる仕組みだという。つまり、感動的な儀式を執り行った僧侶の「袋の中身」は、より多くなる可能性がある。

「水と油」仏教界と葬儀業界が「接近」した結果……

同社は「全日本仏教会との意見交換は実りのあるものでした。双方抱いていた誤解が解けたと感じています。『おきもち後払い』はお坊さんの質の向上にもつながると確信しています。わが社では利用者に対してその後、檀家や門徒になることを制限していません。『お坊さん便』を通じ、ぜひお寺の檀家さんになってもらいたいし、今後、仏教界との共存共栄を図っていきたい」としている。

これまで仏教界と葬儀業界とは「水と油」と言われてきた。それだけに、よりそうの仏教界への「接近」は稀有けうな出来事といえる。

多死社会を受けて葬儀市場は拡大傾向にある。しかし、家族葬や1日葬、直葬など近年、葬送の「規模」が縮小。葬送を担っている団塊世代の強いコスト意識も相まっ

て、客単価は下降線をたどっている。僧侶派遣業も競合他社の参入が相次ぎ、価格競争にさらされている。そんななか、いかに質の高い僧侶を登録させるかが課題だ。

仏教界は仏教界で、寺離れが進む。僧侶が介入しない葬送や離檀も増えつつあり、寺院収入は減り続けている。新たな信者や檀家獲得は悲願だ。

葬儀業界、仏教界の双方が淘汰の時代を迎える中で、いかに連携し合い、足りない要素を補完し合えるか否か。それが「弔いなき時代」の生き残りのカギだ。

出所:アマゾン「お坊さん便」ついに中止になった理由
(2019年10月24日 プレジデントオンライン)