コラム No.075 清水寺も法隆寺も…じつは「マイナー仏教教団」の寺院であることをご存じか

PRESIDENT Online

清水寺も法隆寺も…じつは「マイナー仏教教団」の寺院であることをご存じか

あの東大寺も唐招提寺も小規模宗派

(2021年11月26日 プレジデントオンライン)

現在、日本国内の仏教には156もの宗派(包括宗教法人、仏教系新宗教を含む)が存在する。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんは「小規模な宗派や一部の仏教系新宗教は、消滅の危機に瀕している。特に、地方都市に末寺が多く分布する宗派は将来的に存続が危ぶまれ、他の宗派などに“合併・吸収”される可能性もある」という――。

少子化社会で確実に到来する「仏教宗派の淘汰」

仏教教団(宗派)が淘汰の時代を迎えている。

日本の仏教は曹洞宗や浄土宗、日蓮宗といった宗派ごとに分かれているが、小規模な宗派や一部の仏教系新宗教は、消滅の危機に瀕している。日本の仏教宗派の現状と、未来予測をしてみたい。

日本の仏教は1500年の歴史の中で、多数のセクトに分かれてきた。仏教教団勢力の流れを説明するとかなりややこしいことになるので、ここではごく簡単に説明する。

宗派のはじまりは、鎮護国家を目的とした南都六宗(三論、成実、倶舎、法相、華厳、律)といわれている。南都六宗は学問研究が主であり、衆生救済が目的ではなかった。そのため、次第に衰退していった。現在では法相宗、律宗、華厳宗の3宗しか残っていない。

平安時代には遣唐使をつとめた最澄が天台宗を、空海が真言宗を開き、現在の宗派の基盤をつくった。奈良時代に登場した役行者がはじめた修験道が各地で信仰されるようになったのも、この頃である。

鎌倉時代になって比叡山で学んだ法然が浄土宗を、その弟子の親鸞が浄土真宗、日蓮が日蓮宗を開宗し、入宋した栄西が臨済宗、道元が曹洞宗を伝えた。教科書にも載っている、いわゆる「鎌倉新仏教」である。これらの伝統仏教教団は江戸時代に入ると、ほぼ分派の動きが止まる。

明治時代に入って、信教の自由が発せられると宗派再編が活発化する。1939(昭和14)年に宗教団体法が発足するまで、13宗56派が存在した。たとえば臨済宗は天龍寺派や相国寺派、建仁寺派など14派に分かれていた。

だが、戦時下での宗教統制を目的とした宗教団体法が施行されると、基本的には「1宗祖1宗派」となり(浄土真宗など一部例外の教団はあった)、計28宗派に統合される。

戦後は憲法の定める「信教の自由」によって、再び多くの包括宗教法人が誕生していく。戦後間もない頃の新宗教教団の乱立の様子は、「神々のラッシュアワー」と呼ばれた。現在156もの仏教宗派(包括宗教法人、仏教系新宗教を含む)が存在している。

ちなみに、「新宗教」とは、幕末以降に成立した宗教勢力を指す。仏教系では、宗教団体法以前の13宗56派を「伝統仏教教団」とし、それ以外の新興勢力を「新宗教」と位置付けることが多い。

あえて教団名を挙げないが、一見、伝統仏教教団風の宗派名を掲げて社会的な信用があるように見せつつ、強引な入信勧誘や霊感商法を行っている仏教系新宗教もあるので注意してもらいたい。

奈良の法隆寺も、京都の清水寺も、じつはマイナーな宗派だった

伝統仏教教団のうち、最大の宗派が曹洞宗だ。末寺1万4593カ寺を抱える。次いで、浄土真宗本願寺派が1万250カ寺。さらに真宗大谷派が8624カ寺、浄土宗7008カ寺、日蓮宗5138カ寺と続く。多くの教団を生み、「日本仏教の母山」として知られる天台宗は3323カ寺にとどまっている。

ちなみに著名な寺院でいえば、聖徳太子がひらいた奈良の法隆寺は聖徳宗というマイナーな宗派だ。戦後の「神々のラッシュアワー」の時代に、法相宗から独立した。聖徳宗傘下の寺院は24カ寺しかない。

京都の観光名所、清水寺も戦後、法相宗から1965(昭和40)年に独立し、北法相宗を名乗った。包括する寺院はわずか8カ寺だ。清水寺は日本でも最も古い宗派の一群、南都六宗を起源にもつとはいえ、実は新しい包括宗教法人傘下なのだ。

さらに大仏で知られる東大寺は南都六宗のひとつ華厳宗を受け継いでいる。同宗は108カ寺である。

鑑真がひらいた唐招提寺を総本山にもつ律宗は、現在28カ寺にすぎない。唐招提寺の知名度は高いが、教団の規模はかなり小規模である。

こうした小規模教団のうち、地方都市に末寺が多く分布している教団は将来的に存続が危ぶまれる。

なぜなら、過疎化によって寺院が護持できなくなり、空き寺が増えることが予想されるからだ。数千カ寺もの末寺を抱える大教団傘下の寺院であれば、仮に無住(住職不在)化したとしても近隣の同門寺院の住職が兼務し、護持することは可能になる。

だが、空き寺を兼務する同門寺院が近隣にない小規模教団の場合、「空き寺=廃寺」となる可能性がある。

地方の人口減少が加速すれば、無住寺院(空き寺)が増えるのは必然。私は2040年には現在の全国7万7000カ寺が5万カ寺ほどに減少する可能性があると、指摘し続けている。

こうして小規模教団は勢力をどんどん失っていく。ある時点で、浄土系なら大手の浄土宗や浄土真宗本願寺派など、密教系なら真言宗などに、臨済系なら最大派閥の臨済宗妙心寺派などに「合併・吸収」されていくであろう。

伝統仏教教団で将来的にも安泰なのは曹洞宗、浄土真宗本願寺派、真宗大谷派、浄土宗、日蓮宗、高野山真言宗、臨済宗妙心寺派、天台宗、真言宗智山派、真言宗豊山派の10宗派くらいだろうか。とはいえ、特に曹洞宗や高野山真言宗は過疎地に多くの末寺を抱えており、勢力の減退は否めない。

例えば、同じ臨済宗でも「●●派」に細かく枝分かれしている

また、浄土真宗や臨済宗、真言宗、日蓮宗はセクトが細かく分かれている。参考までに臨済系に例を取れば、以下のように細かい派に分かれている。

【臨済宗】妙心寺派3341カ寺、建長寺派407カ寺、円覚寺派210カ寺、南禅寺派424カ寺、方広寺派168カ寺、永源寺派129カ寺、佛通寺派51カ寺、東福寺派366カ寺、相国寺派111カ寺、建仁寺派69カ寺、天龍寺派102カ寺、向嶽寺派61カ寺、大徳寺派199カ寺、國泰寺派34カ寺、興聖寺派9カ寺

なお、近年、末寺(布教所、教会などを含む教団施設)の数を急激に減らしているのが、次に挙げる仏教系宗教団体である。ここ25年間の経年変化を、文化庁が発行している「宗教年鑑 1995(平成7)年版」と「2020(令和2)年版」を基に比べてみた。この中には伝統仏教教団の真言宗醍醐派や天台宗から独立した妙見宗などが含まれるが、多くが近代になって発足した新宗教である。

カリスマ性をもった教祖が昭和初期に、独自の新宗教団体を設立させた。その最大の新宗教が、法華経信仰から生まれた霊友会だ。さらに霊友会から独立したのが立正佼成会などである。

【天台系】石土宗53→38カ寺、妙見宗116→51カ寺、鞍馬弘宗41→19カ寺

【真言系】真言宗醍醐派1085→902カ寺、真言宗犬鳴派311→80カ寺、真言宗鳳閣寺派138→7カ寺、真言宗花山院派6→2カ寺、光明念佛身語聖宗236→59カ寺、真如苑184→15カ寺、卍教団485→86カ寺

【日蓮系】法華日蓮宗39→19カ寺、在家日蓮宗浄風会45→19カ寺、霊友会3942→2801カ寺、妙道会教団382→12カ寺、立正佼成会690→605カ寺、思親会190→69カ寺

【奈良仏教系】不動宗11→5カ寺

宗教施設数の減少傾向を見る限り、新宗教も厳しい運営を迫られているようだ。新宗教の場合、戦後の高度成長期において、菩提寺をもたない分家筋や、都会に出てきた核家族をターゲットにして勢力を拡大してきた。だが、近年の少子高齢化傾向によって教団運営に赤信号が灯っている。

宗教再編の時代は、すぐそこにまで迫ってきている。

出所:清水寺も法隆寺も…じつは「マイナー仏教教団」の寺院であることをご存じか~あの東大寺も唐招提寺も小規模宗派~
(2021年11月26日 プレジデントオンライン)