PRESIDENT Online
今後の寺院業界動向
「コロナでお寺がどんどん消滅」で寺院が被る深刻な影響
年収が半分に急落、赤字が続出
出所:鵜飼秀徳 「国は見殺し『コロナでお寺がどんどん消滅』で国民が被る深刻な影響」
(2021年4月21日 プレジデントオンライン)R3.9.25転載許可取得済
一般社団法人 良いお寺研究会の調べでは、仏教界全体(寺院数約7万7000カ寺)の総収入は、コロナ禍前は約5700億だったが、2020年は約2700億に減った。
ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏は「3密回避のため法事は減り、葬儀も簡略化されるケースが劇的に増えた。コロナ禍が長引けば、経済的に困窮し消滅する寺院が増える。その影響は国民にも及ぶ」という――。
コロナ禍でさらに経済的に困窮する寺院が増えていくのは必至
コロナ感染症の拡大が、お寺の世界にどれほどの影響を与えているのか。仮にコロナの流行が今後も続くならば今後、仏教界はどうなっていくのか――。
鵜飼秀徳氏が代表理事を務める一般社団法人 良いお寺研究会(東京都品川区)はこの度、「コロナ感染症流行による寺院収入への影響と未来予測」を調査・分析した。調査の結果、寺院収入総額がこのコロナ禍によって、およそ半分近く減少している可能性があることがわかった。
コロナ禍が長引けば、さらに経済的に困窮する寺院が増えていくとみられる。コロナ禍が「寺院消滅」を、より加速化させる可能性がある。
良いお寺研究会では、これまで社会変動が寺院運営に及ぼす影響を調査してきている。このたび、仏教界全体の市場規模を割り出し、コロナ禍による寺院収入への影響を複合的に分析した。
それによると現在、仏教界全体(寺院数約7万7000カ寺)の総収入(市場規模)は、コロナ禍前の水準で総計約5700億円(非収益事業と収益事業の合計)とみられる。大手教団(宗派)が実施している寺院調査(宗勢調査)を基にして算出した。2005年では約4000億円規模の水準だった。寺院を取り巻く経済は近年、急激に成長してきていたことがわかった。
仏教界の総収入は約5700億円が→2700億円に急減
ところが同会の調べでは、2020年では約3000億円(前年比約53%)もの減少となっている可能性がある。それを裏付ける別の調査もある。
一例を挙げれば、公益財団法人全日本仏教会は、昨年8月に大和証券と共同調査した「新型コロナウイルス感染症が仏教寺院に与える影響」(6192サンプル)を発表。例えば、年間を通して多くの布施が見込める「お盆の布施金額の総額」は、例年に比べて46.7%まで落ち込んだと報告している。なお、もっとも落ち込みが大きかったのは、コロナ感染症が拡大した関東地区(32.7%)だった。
また、各宗派のコロナ影響調査でも、軒並み寺院収入の落ち込みが明らかになっている。曹洞宗が昨年6月に発表した「コロナ影響調査」では79%の寺院が、浄土宗の同様の調査では84%が前年同期間と比べた寺院収入が「減少した」と回答している。
こうした各種調査などをふまえ、2020年と同等のコロナ感染症の拡大が今後も続くならば、法事や仏教行事などの開催が危ぶまれ、さらに寺院収入が減少していく可能性がある。
「多死社会」で収入右肩上がりがコロナで暗転
正確な寺院収入を調べるすべは存在しないが、良いお寺研究会が宗勢調査の寺院収入項目を分析した結果、大手教団の1カ寺あたりの平均的収入は、浄土宗寺院が800万円、曹洞宗が700万円、浄土真宗本願寺派が720万円程度とみられる。この収入が、半分の水準まで減少しているのだから、昨年は多くの寺院が赤字決算になっていると考えられる。
こうした状況に対し、浄土宗などでは寺院の等級(経済状況などに応じた寺院の格付け)に応じた、宗独自の助成金給付に踏み切っている。
コロナの流行は経済的には比較的安定的に成長してきた仏教界にとって、突如の暗転となった。
墓じまいの増加や、死生観の変化などで個々の寺院を取り巻く状況の厳しさは指摘されているものの、それはあくまでも限定的で、マクロでは仏教界にはむしろ追い風が吹いていた。むろん寺院格差は拡大しており、弱体化した寺院はどんどん消滅している側面は否めない。
追い風が吹いている背景には、多死社会がある。厚生労働省「人口動態統計」によれば、2007年以降、死亡数が出生数を上回る状態が続いている。2005年の死者数はおよそ108万人だった。これが10年後の2015年には130万人になっている。
2020年はコロナ感染症対策の影響で、インフルエンザやコロナ以外の肺炎死、交通事故死などが減ったことで死亡数が減り、前年比9373人減(0.7%)の約138万4544人となっていたが、日本は中長期的な傾向として多死社会化の局面に突入している。2030年には160万人の死者数に上り、その後も数十年間にわたって死者優位の時代が続くとみられる。
死者が増えれば、弔いの機会が増える。地域の寺の多くは檀家組織を抱えており、檀家が死亡すれば葬儀を菩提寺に任せることになる。また、葬儀の後は初七日や四十九日、百箇日、一周忌、三回忌、七回忌……そして三十三回忌や五十回忌あたりまで、定期的に法事を実施するのが日本人の慣習になっている。一部に、田舎の墓から都会の永代供養へと移す改葬もみられるが、今のところ限定的である。
葬儀や法事が、一般的な日本の寺院のメイン収入となる。
なかには、「お寺は拝観料や、お守りや御朱印などの収入が多いのでは」と、疑問に思う人がいるかもしれない。だが、拝観料に頼っている寺院は京都や鎌倉などにある、ごく一部の寺院に限られる。寺院が収入のうち、葬儀や法事の宗教儀式が8割以上を占めているといわれている。では、寺院は年間どれくらいの葬儀や法事を実施しているものなのか。年間葬儀回数は一般的に檀家軒数の6%ほどだ。法事(回忌法要)の実施数は檀家数の3割ほどである。
つまり、100軒の檀家を抱える寺院が1年間に執り行う葬儀はだいたい6件前後。法事の数は30回ほどとなる。住職がサラリーマンなどの副業をもたない専業型寺院の場合、檀家数が少なければ、他の有力寺院に法事の手伝いをするなどして生計を立てるしかない。
寺を切り盛りできず、食っていけない僧侶を国は見殺しにするのか
では、各寺院がどれだけの檀家数を抱えているかといえば、情報開示していないので、なんともいえない。
だが、例えば、浄土宗(寺院数約7000カ寺)が実施した宗勢調査(2017年)では、全体の18.4%が51〜100戸の範囲に収まっている。寺院専業で生計を立てていける(家族を養える)目安である檀家数(300軒以上ともいわれる)の割合は、12.2%にとどまっている。年収面でみれば300万円未満の低収入寺院が39.6%、300万円以上500万円未満の収入の寺院が14.3%、500万円以上1000万円未満が22.8%、1000万円以上が23.3%となっている。どの宗派も概して同じような分布傾向とみてよい。
つまり、布施収入だけで生計を立てられない寺が多数派なのだ。
そこへ、コロナパンデミックが仏教界を直撃した。昨年来、「3密」状態になりかねない法事は減り、葬儀も「家族葬」や「1日葬」、あるいは火葬のみの「直葬」になるケースが劇的に増えた。さらに花まつりやお彼岸、お盆などの年中仏教行事も、多くの寺院が規模縮小や自粛に追い込まれている。
もっといえば、企業や学校法人や社会福祉法人、NPO法人などに対して実施された国の経済的支援策である「持続化給付金(上限200万円)」も宗教法人は対象にならなかった。その理由は、政府が宗教団体に公金を入れれば、国民から政教分離の原則に反する可能性がある、としているからだ。
当然のことながら、緊急事態宣言に伴って経済的影響を受けた飲食店や関連事業者に対する一時金なども宗教法人は適用になっていない。
国や行政レベルで寺院消滅回避への対策が必要
現在、寺院は全国におよそ7万7000も存在する。そのうち、無住寺院(住職がいない空き寺)などは1万7000カ寺近くに及ぶとの調査がある。良いお寺研究会では、後継者不足から、2040年には無住寺院がさらに1万ほど増えると試算しているが、コロナ禍が長引けば「寺院消滅」のスピードはより早まることだろう。
地域からコミュニティの核である寺が消えれば、地方の衰退はますます加速するという悪循環に陥る。寺院消滅は、地域の安全にも関わる。空き寺が犯罪の温床になったり、防災の拠点として機能しなくなったりするからだ。
もはや、いち寺院や包括宗教法人(宗門)だけの問題だけでなく、国や行政レベルで寺院消滅回避への対策が求められるだろう。
出所:鵜飼秀徳 「国は見殺し『コロナでお寺がどんどん消滅』で国民が被る深刻な影響」
(2021年4月21日 プレジデントオンライン)