コラム No.064 「カプセルの中で自分の体を30日かけて腐らせ堆肥に」究極の自然葬に3カ月で550人も予約が殺到した

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「カプセルの中で自分の体を30日かけて腐らせ堆肥に」

究極の自然葬に3カ月で550人も予約が殺到した

「カプセルの中で自分の体を30日かけて腐らせ堆肥に」究極の自然葬に3カ月で550人も予約が殺到した
(2021年7月29日 プレジデントオンライン)

遺体を堆肥にする「コンポスト葬(堆肥葬)」のサービスが昨年末に米国で始まり、予約者が殺到しているという。遺体はマメ科植物のウッドチップが敷きつめられた容器内でバクテリアなどの微生物の力によって分子レベルに分解され、土へと還る。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏は「海洋散骨が広まっている中、法整備が整えば、日本にも将来的にコンポスト葬が入ってくる余地はある」という――。

コロナ禍で死への意識の高まり「遺体を堆肥にする」サービスが話題

ここ数年、「自然葬」なるカテゴリーの葬送が日本国内で人気を集めている。つまり、「自然に還る」イメージのある「海洋散骨」や「樹木葬」の類である。

だが、米国ではさらに先をいく究極の自然葬「コンポスト葬(堆肥葬)」のサービスが始まり、話題を呼んでいるのをご存じだろうか。新型コロナウイルスによる「死」への意識の高まりが、こうした葬送の多様化の後押しをしているとみられ、今後日本の葬送のあり方にも影響を与えそうだ。

コンポスト葬を開発したのは、米国ワシントン州シアトルのベンチャー企業「RECOMPOSE(リコンポーズ)」だ。コンポスト葬とは、遺体を堆肥にかえる葬送のこと。いや、葬送ともいえない代物だろう。全世界的に、人間社会が醸成してきた葬送文化に一石を投じる「新しい死後のあり方」といえるものになるかもしれない。

火葬は二酸化炭素を大量に排出し、地球にやさしくない

同社の公式サイトによれば、創業者はカトリーナ・スペード氏という女性。建築を学んでいた大学院時代に、死後のあり方について強く関心を寄せるようになったという。そして、従来の環境負荷の大きい埋葬(土葬や火葬など)に疑問を抱き、2017年にリコンポーズ社を設立した。2020年11月から、コンポスト葬のサービスを本格的に開始した。

米国では1年間でおよそ270万人が死亡し、そのほとんどが火葬されたり、直接土葬されたりしている。火葬は二酸化炭素を大量に排出して、地球温暖化を加速させる元凶となる。土葬も土壌汚染につながる。米国における火葬率はおよそ56%。20年後には78%になると試算されている。

世界の人口は現在78億人。将来的には100億人以上になるともいわれており、火葬の増加、墓地不足など、死後処理を巡って様々な問題が浮上してくることは間違いない。

こうした、地球環境には決して優しくない埋葬の現状を彼女は憂いた。上院議員に働きかけ2019年、ワシントン州議会において人間の堆肥化を可能にする法案可決に導く。2021年に入ってカリフォルニア州、オレゴン州も合法化に至っている。

コンポスト葬の具体的な仕組みはこうだ。

ウッドチップ敷いた容器内でバクテリアの力によって分子レベルに分解

葬儀を終えた遺体は、マメ科植物でできたオーガニックウッドチップが敷き詰められた容器に入れられる。さらに堆肥化を促進させるために、二酸化炭素や窒素、酸素、水分などを制御できるカプセルの中に入れられ、そこでバクテリアなどの微生物を増殖させて腐らせる。

遺体は、およそ30日をかけて分子レベルで分解され、土へと還っていく。その後は2~4週間かけて土を硬化させる。

リコンポーズ社のシアトルの施設には、すでに10基のカプセルが用意されている。そのエリアはグリーンハウスと呼ばれ、臭気を防ぐための高性能な空気清浄機などが備わっているという。

最終的には、遺体1体あたり85リットルほどの土壌ができる。この栄養豊富な土壌は、園芸用堆肥に使われたり、ベルズマウンテン保護林に撒かれて森林を構成する要素になったりして、新たな命を育む源泉に生まれ変わる。

同社によれば、火葬や土葬と比較して、コンポスト葬を選択した場合は1トン以上の二酸化炭素を節約できると試算している。

遺体1体あたり85リットルの土壌、費用は約60万円、予約殺到550人

気になる価格だが、同社のコンポスト葬は5500ドル(約60万円)。米国では、一般的には火葬費用が6万円程度、葬儀から遺体安置施設の利用料、納棺料、墓地代などを含めるとトータルで死後の費用は平均550万円ほどかかる。その点、コンポスト葬では火葬費や墓地、墓石代などが不要で、割安感はありそうだ。

米国の宗教専門メディア「Religion News Service」によれば、サービス開始から3カ月後の2021年2月には世界各国からの予約が550人に達したという。今後はさらに増えていきそうである。

なぜなら、欧米では徹底したエコロジストは一定数いるとみられるからだ。近年のSDGs(持続可能な開発目標)の広がりなどによって、葬送のあり方を再考する議論が深まりつつあった。

そこへ、新型コロナウイルスの爆発的蔓延が追い討ちをかけた。現在、米国での死者の合計はおよそ61万人。遺体安置施設はあふれかえり、葬儀や埋葬もままならない状況が続いた。

通常の弔いができなくなる中、哲学的に死をとらえる人が増えた。その中で、「死後の自然回帰」を強く支持する人が現れてきているのだろう。

日本でコンポスト(堆肥)葬はOKなのか、流行る可能性はあるのか?

では、日本でコンポスト葬が流行る可能性はあるのだろうか。私は時期尚早ではあるものの、仮に法整備が整えば、将来的にコンポスト葬が入ってくる余地はあると考える。

まず、法律の問題である。今のところ、コンポスト葬は日本では非合法に当たりそうだ。山野などに個人が勝手に遺体(遺骨、堆肥化した遺体を含む)を撒けば、刑法190条で定めている死体遺棄罪(3年以下の懲役)に觝触する。

一方で散骨は、日本各地で実施されている。「樹木葬」「自然葬」などの名称で呼ばれる地上型の散骨の場合、都道府県知事の許認可を得た霊園内に造られた特定の場所でのみ、散骨が許されている。

たとえば富士山麓などの風光明媚な土壌に眠りたい、自宅の庭に埋まりたい、あるいは田畠の肥料になりたい、と願っても実現することはできない。

日本における多くの樹木葬の場合、霊園内の敷地の隅に樹木や草木を植え、カロートと呼ばれる容器に遺骨を入れるスタイルが一般的だ。だがこれはあくまでも、「自然に還れるイメージ」を抱ける葬送にすぎない。その点、コンポスト葬は完全に自然回帰型の葬送法なので、斬新である。

海洋散骨の場合は、確かに「自然に還れる」埋葬法ではある。近年では1996(平成8)年に亡くなった漫才師の故横山やすしが、無類の競艇ファンだったことから死後、遺骨が広島県の宮島競艇場の海に撒かれた。

1998(平成10)年には自殺したロックバンド、X JAPANのギタリストhideの遺骨の一部がロサンゼルス近海に流されている。2011(平成23)年に亡くなった落語家の立川談志は、生前より散骨を希望していたことから、ハワイの海に撒かれた。

現在、年間死者数の1%が海洋散骨、堆肥葬受け入れの「素地」はある

日本では芸能人が先行する形で海洋散骨が始まり、ここ10年ほどで一般化した。現在、年間死者数の1%程度が海洋散骨を選択しているといわれている。しかし、海洋散骨とコンポスト葬は、遺族感情としてはかなり異なる。海洋散骨を望むような人が、コンポスト葬を選択肢に入れるかどうか。

むしろコンポスト葬は土葬に近い。しかし土葬への敬遠意識は、日本人はとても強い。日本では火葬率が99.9%と世界一の水準にあり、相対的に土葬へのタブー意識が強まってきているのだ。

九州でムスリム用の土葬墓を造成する計画が、住民の反対運動によって頓挫しているケースがある(プレジデントオンライン2020年12月15日「住民反対運動も“世界一の火葬大国日本”で在日外国人が望む土葬を受け入れられるか」)。コンポスト葬は、土葬に近い“生々しい”葬送なのがネックだ。

国民の宗教感情の問題もある。海洋散骨が人気といっても、まだまだ多く日本人は遺骨や墓を大事にし、一周忌、三回忌といった追善法要を実施しているのが実情だ。

また、世間体もある。特にイエやムラ意識が強い地方在住の場合、コンポスト葬を選択した時の地域社会の目はかなり厳しそうだ。

だが、葬送儀礼が縮小傾向にあるのは紛れもない事実。日本でも樹木葬や海洋散骨を選択する人々が増えてきている実情を踏まえれば、コンポスト葬受け入れの「素地」は、着々と進んでいるようにも思える。

出所:「カプセルの中で自分の体を30日かけて腐らせ堆肥に」究極の自然葬に3カ月で550人も予約が殺到した
(2021年7月29日 プレジデントオンライン)